シリーズ「撮影ディレクションとは何か ─ 失敗しない撮影の考え方」の第1回。
企業の採用や広報で撮影を発注するとき、「撮影ディレクション」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。聞いたことはあっても、それが具体的に何を指すのか、はっきり説明できる方は多くありません。それもそのはずで、撮影ディレクションは、撮影の発注に慣れていないと、なかなか見えてこない仕事だからです。
この第1回では、シリーズ全体の土台として「撮影ディレクションとは何か」を、できるだけわかりやすく整理します。
DEFINITION
撮影ディレクションとは、撮影の目的・伝えたい内容・活用先を整理し、写真や動画に落とし込むための「設計」と「進行」のことです。「カメラマンが来てシャッターを切る」だけが撮影ではありません。何のために、誰に向けて、何を撮るのか ── それを決める仕事まで含めて、撮影です。
「撮るだけ」と「ディレクションのある撮影」は何が違うのか
まず、ひとつ整理しておきたいことがあります。すべての撮影にディレクションが必要なわけではない、ということです。
たとえば社員旅行やイベントの記録撮影なら、その場で起きたことをそのまま撮るのが正解です。何を撮るかは現場が決めてくれます。こうした「記録のための撮影」では、ディレクションの出番はそれほど多くありません。
一方、採用サイトの写真や、採用動画、広報用のビジュアルはどうでしょうか。これらは「その場にあるものを撮る」のではなく、「会社が伝えたいことを、写真や動画というかたちにする」撮影です。どんな人に、何を、どう感じてほしいのか ── それが決まっていなければ、何をどう撮ればいいのかも決まりません。
つまり、企業・採用の撮影では、シャッターを切る前に「決めておくべきこと」がたくさんある。その「決める」部分を担うのが、撮影ディレクションです。
撮影ディレクションの「5つの仕事」
撮影ディレクションは、ひとことで言えば「設計と進行」ですが、実際にはもう少し幅があります。企業・採用の撮影でディレクションが担う仕事を分解すると、大きく5つになります。
何のために撮るのか。採用を強化したいのか、社内に向けた広報なのか、会社の認知を広げたいのか。ここが曖昧なまま進む撮影は、実はとても多いです。そして、目的が定まっていない撮影こそ、「撮ったけれど、思っていたものと違う」という結果につながります。5つの仕事のなかで、ここが最も大切です。
同じ採用撮影でも、新卒なのか中途なのか、エンジニアなのか管理職候補なのかで、見せるべきものは変わります。若手に向けるなら職場の空気感や人間関係、管理職候補に向けるなら事業の安定感や裁量の大きさ。届けたい相手によって、撮るべき中身は変わります。
目的と届けたい相手が定まると、必要な素材が見えてきます。社員インタビュー、日常風景、会議の様子、代表メッセージ、作業シーン、SNS用の短い動画、動画のつなぎに使うカット ── 何を、どれだけ撮ればいいのか。これを撮影前に組み立てておきます。
当日の段取りです。誰をいつ呼ぶか、移動の順番、時間配分、撮り漏れの防止。そして、被写体になる社員の緊張をほぐし、自然な表情を引き出す空気づくり。多くの人が「撮影ディレクション」と聞いてイメージするのは、おそらくこの④の部分でしょう。ですが、ご覧のとおり、これは5つあるうちの1つにすぎません。
撮った写真や動画が、採用サイト・SNS・動画・バナーなどで実際に使われることまで見越して撮影します。撮ることがゴールではなく、「使われ、目的を果たす状態をつくる」ことがゴール。ここまで含めて考えるのが、撮影ディレクションの役割です。
撮影ディレクションとは、現場の指示出しのことではありません。それは5つの仕事のうちの、たった1つ。本当に大切なのは、カメラを構える"前"に決まっていることなのです。
なぜ、この話を知っておいてほしいのか
ここまで読んで、「撮影って、思っていたより準備が必要なんだな」と感じた方もいるかもしれません。その感覚は、とても正しいものです。
そして、お伝えしておきたいことがあります。この5つの仕事を、発注する企業の担当者がすべて一人で背負う必要はありません。目的の整理も、誰に届けたいかの言語化も、撮影に不慣れな担当者が一人でやろうとすれば、とても難しいことです。その難しい部分を一緒に引き受けるのが、撮影ディレクションという仕事だからです。
SIGNAL FORWARDでは、写真・動画の撮影と、このディレクションを一人で担っています。だからこそ、「何を撮るかを決める設計」と「実際に撮る現場」が分断されません。打ち合わせで一緒に目的を整理し、当日はその意図に沿って撮影し、撮った素材がどう使われるかまで見通す ── その一連の流れを、ひとつながりでお届けできます。
次回からは、この5つの仕事を一つずつ掘り下げていきます。まず次回は、多くの担当者が経験する「ちゃんと撮れているのに、思っていたものと違う」という現象 ── なぜそれが起きるのかを取り上げます。
