シリーズ「撮影ディレクションとは何か ─ 失敗しない撮影の考え方」の第2回。

前回(第1回)では、撮影ディレクションとは「目的・伝えたい内容・活用先を整理し、写真や動画に落とし込む設計と進行」であり、5つの仕事に分かれることをお伝えしました。今回はその中でも、多くの担当者が実際に経験する"ある現象"を入り口に、ディレクションがなぜ必要なのかを掘り下げます。

その現象とは ── 「ちゃんと撮れているのに、なぜか思っていたものと違う」です。

「うまく撮れているのに、何か違う」の正体

採用動画や企業の写真を外注したとき、こんな経験はないでしょうか。納品された写真は、ピントも合っているし、明るくきれいに撮れている。技術的には何の問題もない。それなのに、見た瞬間に「あれ、こういうことじゃなかったんだけどな」と感じる。

この違和感は、カメラマンの腕が悪いから起きるのではありません。「きれいに撮れていること」と「伝えたいことが伝わること」は、別のものだからです。技術は十分でも、何を伝えるべきかが共有されていなければ、写真は「きれいだけれど、ずれているもの」になります。

THE REAL PROBLEM

「思っていたものと違う」は、技術の失敗ではなく、意図がうまく伝わらなかったときに起きるすれ違いです。だからこそ、カメラマンを変えても、機材を良くしても、この問題は解決しません。解決のカギは、撮影が始まる前の「伝わり方」にあります。

撮影は「企業 対 カメラマン」ではない

ここで、撮影という仕事の構造を考えてみます。

多くの人は、撮影を「企業がカメラマンに発注する」ものだと考えています。会社という組織が、プロのカメラマンに依頼する。一見、そのとおりです。しかし実際に現場で起きているのは、もっと人間的なやりとりです。

撮影は、「自社の担当者という一人の人間」と「カメラマンという一人の人間」の擦り合わせで進みます。会社が伝えたい価値は、組織から直接カメラマンに届くわけではありません。担当者という一人の人の言葉を通して、はじめてカメラマンに伝わります。

つまり撮影は、「企業 対 カメラマン」という整理された取引ではなく、「人 対 人」の、もっと曖昧なやりとりなのです。

翻訳が、一人の担当者に委ねられている

この構造には、見落とされがちな難しさがあります。

会社の価値や、伝えたい雰囲気を、カメラマンに伝わる言葉にする ── これは言わば「翻訳」の作業です。そして、その翻訳をする役割が、多くの場合、撮影に不慣れな担当者一人に委ねられています。

担当者は、自社のことをよく知っているかもしれません。けれど、それを「どう撮れば伝わるか」という撮影の言葉に翻訳するのは、また別の技術です。本業の合間に撮影の窓口を任された担当者にとって、これは決して簡単なことではありません。翻訳がうまくいかなければ、どんなに腕の良いカメラマンが撮っても、結果は「思っていたものと違う」になります。

「思っていたものと違う」が起きるのは、誰かがミスをしたからではありません。撮影が「人対人の翻訳作業」であることを、誰も整理しないまま現場に進んでしまった ── ただそれだけのことなのです。

だから、翻訳役が必要になる

ここまで読めば、撮影ディレクションが何のためにあるのかが見えてきます。

撮影ディレクションとは、この「人と人の間の翻訳」を引き受け、ばらつきをできるかぎり埋める仕事です。会社が伝えたいことを聞き出し、それを撮影の言葉に置き換え、カメラマンと共有する。担当者が一人で背負っていた翻訳を、撮影のプロの側が一緒に担う。それだけで、「思っていたものと違う」が起きる確率は大きく下がります。

SIGNAL FORWARDでは、写真・動画の撮影と、このディレクションを一人で担っています。だから、担当者から聞き取った意図が、別の誰かを経由して薄まることなく、そのまま撮影に反映されます。「伝えたいこと」と「撮るもの」の間に、余計な翻訳の段差が生まれません。

次回は、この翻訳をスムーズにするために ── 発注する企業の担当者の側が、撮影前に考えておきたいことを取り上げます。「準備が必要」と身構える必要はありません。たった数つの問いに答えるだけで、撮影は大きく変わります。