採用担当者と話していると、ときどきこんな悩みを聞きます。

「採用には予算をしっかりかけている。サイトもきれい、動画も丁寧。応募数は前年比150%。内定承諾率も高い。しかし、入社1年以内に半数が辞めていく。人材流出をなんとかしたい。」

率直なご意見です。そして、その答えを言葉にできる経営者・採用担当者は、意外と少ないのが現実です。

今後のAI時代に優秀な人材を獲得することと同じくらいに大切なこととして、現在社内にいる人材を定着させることがあります。

このように、撮影現場で何度も気づかされるのは、「採用」と「インナーブランディング」は混同されがちですが、目的も対象も全く違う活動だということです。そして、撮影に求められる役割も、まったく異なります。

これから5回に分けてお届けする「AI時代の採用論」シリーズでは、AI時代の採用構造の変化と、それに対応する撮影の新しい価値を多角的に解説していきます。

採用戦略の二極化、中小企業ならではの強み、採用を絞った企業こそできる新しい投資、そして「採用向け」と思っていた素材が会社全体の成長エンジンになる理由──シリーズを通して、撮影投資の本当の可能性を見ていただきたいと考えています。

本編に入る前に、まずはシリーズ全体の構成を先にご紹介します。気になる回から読んでいただいても構いません。

SERIES OVERVIEW / Roadmap
本シリーズ「AI時代の採用論」全4回の構成

気になる回から読んでいただけるように、各回の内容を先にご紹介します。

それぞれ、最新の調査データと撮影現場の感覚をもとに、撮影サービスとの関係を整理していきます。

About this Prologue

本編となる序章では、シリーズ全体の前提として「採用とインナーブランディングの違い」を整理します。シンプルに見えて意外と混同されやすいこの2つの概念を整理することで、第1部以降の話がぐっと立体的に理解できるようになります。

「新卒採用」とは何か

まず、新卒採用の定義から確認します。

新卒採用とは、会社の外にいる人を、自社の社員として迎え入れる活動です。

対象応募前の学生・転職検討者など、まだ自社にいない人
目的新しい仲間を増やす
主な指標応募数・内定承諾率・入社後の活躍

採用活動で言われる「社外に向けた発信」も、この延長線上にあります。求職者に対して「うちの会社はこういう会社です」と外向きに発信し、応募してもらいやすくする取り組みです。

採用サイト、採用動画、SNSでの社員紹介、求人媒体への掲載──これらはすべて社外の人に向けて発信されています。

「インナーブランディング」とは何か

一方、インナーブランディングは方向が真逆です。

すでに自社で働いている社員に、自社への誇りと共感を持ってもらう活動を指します。「インターナルブランディング」と呼ばれることもあります。

対象既存社員(新人〜ベテランまで全員)
目的エンゲージメント向上・定着率向上・モチベーション向上
主な指標離職率・エンゲージメントスコア・社員紹介採用の数

専門サイトの定義を借りるなら、インナーブランディングは社内の人に向けた「社内コミュニケーションの取り組み」です。社員一人ひとりに企業理念やビジョンが浸透すると、エンゲージメントが高まり、離職率の低減や定着率の向上につながります。

つまり、社外向けの発信ではなく、社員の心を社内に向ける取り組み、と言い換えてもいいかもしれません。

採用とインナーブランディングは「両輪」

ここで多くの担当者が抱える誤解を、ひとつ解いておきます。

「採用に力を入れていれば、定着は自然についてくる」
「インナーブランディングは、採用がうまくいってから考えればいい」

──残念ながら、どちらも違います。

冒頭で紹介したように、採用ばかりに投資しても、社員が辞め続ける状態だと、結果として「会社に人が増えない」のです。逆に、インナーブランディングが行き届いていれば、社員は誇りを持って働き、ときには知人を会社に紹介してくれます。

採用だけでは不十分(一輪車では進まない)vs 採用とインナーブランディングが両輪として揃うことで会社が前進する図解
採用とインナーブランディングが両輪として揃うことで、企業は力強く成長できる

エンゲージメントの高い企業は離職率が低い傾向が、各種調査でも繰り返し示されています。つまり「採用」と「定着」は、車の両輪なのです。どちらかが弱いと、企業はちゃんと前に進めません。

撮影サービスの位置付けが、根本的に違う

ここからが、撮影に関わる本題です。

採用とインナーブランディング、それぞれで必要な撮影は、目的も作り方も異なります。

OUTER / 外向き
採用撮影
─ 外の人に伝える素材
  • 採用サイトのトップビジュアル
  • 求人媒体に載せる社員ポートレート
  • SNSで「うちの会社、こういう雰囲気です」と発信する素材
  • 1日密着動画で「働く姿」を見せるドキュメンタリー
INNER / 内向き
インナー撮影
─ 社員自身が見る素材
  • 表彰式・周年イベントの記録
  • 部署紹介の社員ナレーション動画
  • ベテラン社員の1日密着動画
  • 経営層から社員へのメッセージ動画
  • 退職時の「ありがとう動画」

採用撮影のポイントは「初めてこの会社を知る人に、どう伝わるか」。社員の表情、オフィスの空気、仕事の真剣さ──そういう要素が、応募の意思決定に影響します。

インナー撮影のポイントは「社員自身が見て、自社への誇りを感じられるか」。社員一人ひとりが主役になり、組織の物語を共有する素材になります。

同じ「人を撮る」という行為でも、誰に向けて作るかで、撮影の意図も、編集の方向性も、まったく変わるのです。

2026年に起きている、大きな構造変化

なぜ今、このシリーズで「採用」と「インナーブランディング」を一緒に取り上げるのか。

答えは、2026年現在、企業の採用戦略が大きな転換点を迎えているからです。

AIの普及を背景に、新卒採用を絞る大手企業の動きが報じられる一方で、新卒重視を貫く企業もあり、採用戦略は明確に「絞る企業」と「貫く企業」へと二極化しています。

そして、この二極化の中で、どちらの戦略を選んだ企業にも共通して重要になっているのが──社員一人ひとりへの投資、すなわちインナーブランディングです。

採用を絞った企業は、残った社員のエンゲージメントを保つために。新卒を貫く企業は、新人と既存社員をつなぐために。どちらの戦略でも、撮影は重要な手段になります。

詳しい構造変化と、各規模・各戦略ごとの撮影投資の考え方については、本シリーズの第1部以降で深掘りしていきます。

撮影は「採用」だけで考えると、損をする

最後にお伝えしたいのは、これからの時代における撮影投資の考え方です。

撮影サービスの発注を検討するとき、多くの企業は「採用に使うため」を出発点に考えます。それは間違いではありません。

しかし、同じ撮影で得た素材を、インナーブランディングにも活用できるとしたら──。

撮影の意図を「採用+インナー」の両軸で設計しておけば、1回の撮影で得た素材の活用範囲が2倍になります。投資対効果は劇的に変わります。

これは小手先のテクニックではなく、AI時代に求められる撮影の新しい設計思想です。

まとめ

今回お伝えしたかったのは、シンプルなことです。

「採用」と「インナーブランディング」は別物です。
でも、両方が揃って初めて、人が増え、人が定着する企業になります。

そして、撮影サービスはそのどちらにも貢献できます。外向きの発信素材としても、内向きの共有素材としても、撮影は会社の人と組織を動かす燃料になります。

次回からは、AI時代の採用戦略の構造変化を具体的なデータとともに解説していきます。「絞る企業」と「貫く企業」、それぞれの戦略でどう撮影が活きるのか──そして、なぜ撮影が会社全体の成長エンジンになり得るのか。

ぜひ、第1部もお楽しみに。